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はんのすけしゅうげん

半之助祝言

山本 周五郎

「キング」大日本雄辯會講談社、1951(昭和26)年7月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 21,997 字 · 44 页

青空文庫

二

実に漫然と進んでいったのが、ふと気がつくと泉池の側に一人の老人がいて、なにか頻りに口小言を云いながら、鯉に餌をやっているのが見えた。

老人は肥えた大きな躯であった、肩も厚いし胸も厚いし、腹もたっぷりふくれている。頭部も大きい、太い首の中へめり込みそうである、顔は四角い感じで、これも充分に肉が附いている。高い鼻、への字なりの唇、小さいが澄んでよく光る双眸。すべてが堂々として威圧的で、しかも人間味ゆたかな感じであった。

半之助は側へ寄っていった。

二

老人は池畔の石の上に跼まって、まるっこいすべすべした手で、なにかの餌を摘んで水面へさし伸ばした。すると下に群れている鯉どもは、水中からわれ先に立ちあがって、(正しくそう見える)なかには躯の三分の二も水面へのびあがって、口をぱくぱくさせるのであった。

「きさまじゃない、黒だ、きさま今、……ちょっ、きさまじゃないと云うに」

老人は舌打ちをする。

赤いのや白いのや、赤白の斑などのなかに、一尾だけ黒いのがいる。見ているとそいつだけが水面へ出て来られない、老人の手の餌を狙ってとびあがろうとするのだが、ほかの鯉どもに押っぺされたり突きとばされたりして、忽ち下積みになってしまうのであった。