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こきんしゅうまきのご
古今集巻之五
山本 周五郎
「文藝春秋」文藝春秋新社、1958(昭和33)年11月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 21,482 字 · 43 页
四 岡本五郎太の手記
弔問の客は多く、藩主からも近習番の者が、非公式でくやみの意を伝えに来た。父の六左衛門は病気ちゅうのことで、もちろん客の前へは出なかったし、心配したほど驚きも悲しみもみせなかった。
「おまえもおれも女房運が悪いな」と六左衛門は沈んだ声で云った、「どこの夫婦もたいていは女房があとに残るようだが、おれのような年になってあとへ残ると迷惑なものだ、おまえもこんどは丈夫な嫁を貰うんだな」
それっきり、杉江についてはなにも云わなかった。
参覲の供は遠慮を願い出たが、「その必要はない」ということで、予定どおり十五日に、主計は供に加わって江戸へ立った。出立する日の早朝、岡本五郎太が訪ねて来て、「こんどのことを一日も早く忘れろ」と云った。どんな理由があったにせよ、死んだ者はもうかえらない、取返せないことで思い悩むのはみれんだ。幸い、江戸へゆくことだし、土地が変るのを機会にいやなことを忘れるようにしてくれ、と繰り返して云った。
「うん」と主計はなにをみつめるともない眼つきで、じっと脇のほうを凝視しながら答えた、「――そうするようにしよう」
四 岡本五郎太の手記
七月二十一日、永井主計のことで江戸屋敷からまた三通の手紙が来た。