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こきんしゅうまきのご

古今集巻之五

山本 周五郎

「文藝春秋」文藝春秋新社、1958(昭和33)年11月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 21,482 字 · 43 页

青空文庫

なり、すぐに人と「喧嘩をする」と書いていた。丹野はこれと逆に、主計がひどく「疑い深く」そして「陰気になった」という。

――気をひきたててやろうと思い、茶屋遊びなどにも伴れだしたが、酔えば酔うほど気むずかしくなり、ますます陰気に黙りこんでしまう、そうして口癖のように、世の中のことはなに一つ信じられない、友情などといってもうわっつらだけのものだ、というような、投げやりなことをよく云うようになった。

そんなことも書いて来た。読む私には、およそ主計の気持が推察できる。みれんだ、とは云ってやったものの、あんなふうにして妻に死なれたことが、そうたやすく忘れられるものではあるまい。自殺の理由でもわかれば、そこからぬけだすみちもあろうが、理由もわからず思い当ることもなく、黙って死んでしまわれたのだから救われようがないだろう。だが、永井主計もそう若くはない、と私は嘆息しながら思った。年も三十二歳、まもなく家禄も恢復され、中老職に仰せつけられる筈だ。もう暫くすれば立ち直るに相違ない、私は近ごろまでこう考えていた。

けれども、事はそう簡単にははこばず、却って妙にこじれだすようであった。