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わし
和紙
東野辺 薫
「東北文學」1943(昭和18)年4月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 35,557 字 · 70 页
それにまた、関係者の認識不足が禍して、原料会社と和紙生産者組合との間に、楮商業組合というのを設置したため、とかくごたごたの起り易い配給機構の拙さもあった。が、すべてはよろこんで堪えしのばねばならないのだと、村の人達も次第に覚悟をきめてきた。どんな大戦争がたとえば何十年続くとしても、楮の手漉き紙を日本人の生活から切り離すことは考えられない。とするならば、紙漉きはもはや村の生活を豊かにささえるだけの副業ではなくなった。
しかし、何と言っても、軍需紙を製造させられることになってからの、村の人達の気構えが劃然と立ちなおってきたのは事実であった。村の紙が直接戦争の役に立つのだという矜持とそして責任感が、遽に人々の胸を引き締めた。口にこそ出さなかったが、他の産業戦士と呼ばれる人々に対して抱いていた、嫉妬めいた感情も一時に払拭された。その上軍需紙の原料は、何の煩わしさもなく真直ぐに組合へ送られてきた。組合長の家に至急召集があって、いよいよ俺達も直接のお役に立つぞとはじめてきかされた時は、言い合わせたように、皆が煙管を離して居ずまいを正したものである。――と、父から聞いたその話も、今ユミは思い出すのであった。