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わし
和紙
東野辺 薫
「東北文學」1943(昭和18)年4月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 35,557 字 · 70 页
汽車が動き出すと、一生懸命の怖い眼で惣吉を見つめた姿を、今でもありありと友太は思いうかべることが出来た。その時も、我れにもない感傷がこみ上げてきて、それは友太自身が帰還兵の一人であることにもよるのだが、茫然と立ちつくす弟の肩を叩いて、つい言わずにはいられなかった。
「いいでや、俺がみんな引き受けた。」
ん、頼むでと、惣吉も眼を伏せた。
「出征前にこんなことがあったとなると外聞が悪いで、どうか俺が帰ってくるまで誰にも黙っててくんろや。」
もし自分が戦死したら、女の気持をよく訊いたうえで、どうともいいように納めてくれというのにも、いいとも、みんなわかっていると、友太は深くうなずいた。
専売局の友達が送ってきてくれたので、友太にも来てもらって大谷屋で祝杯を上げなおしたと、家の前は言いつくろってそれなりにすみはしたが、友太にすれば、その時から人の知らない重荷を背負い込んだことになった。両親にだけでも打ち明けてしまえたらと絶えず思うのだったが、それでは弟の心持を無下に踏みにじることにも考えられたし、またへたに早まって、あとで恨まれる結果になるのもいやだった。結局は胸一つに納めて置くよりほかはなかったのが、とうとう昨日の手紙になったのである。