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わし

和紙

東野辺 薫

「東北文學」1943(昭和18)年4月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 35,557 字 · 70 页

青空文庫

水音だけは賑やかでも、掻き立てる手応えは至って頼りなく、そのくせ、ぶるんぶるんと肩から腰へ妙に響いてくるのだった。鉛色の雲が低く垂れて、今にも雪になりそうな底冷えの中で三十分ばかりしているうちに、下腹が突っ張ってきてどうにも耐えられなくなっていた。坂を登って来るのがようやくで、炉端に這い寄ったまま、としゑはしばらく動けなくなってしまった。

「んだから無理だってのに!」

紙つけをしていた姑は、藁刷毛を放り出してとしゑの背を抱いた。

「惣に申しわけのならねえことにでもなったら困るでな。」

漉屋を出て来た友太に、今までの彼からは思いも寄らぬ不機嫌さでそう言われると、としゑは悲しくなって涙が出た。

座布団を持ち込んで、よしと並んでやってみた楮さらしも、ひどく冷えた腹痛にその夜中悩んでからは、子供の産れるまでのとしゑに出来る紙漉き業は、もう何もないのだった。彼岸を過ぎればこの仕事も余程楽になるし、まあそれよりも、身二つになってから何でも手伝って貰うことにする、そう姑は慰めがおに言った。

間もなく村の正月が来た。特配の酒も二日にはすでに飲み尽していながら、それでも明るい顔をして餅だけは腹一杯食うのであった。