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わし

和紙

東野辺 薫

「東北文學」1943(昭和18)年4月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 35,557 字 · 70 页

青空文庫

百枚くらいずつ重ねて截つが、周囲の断ち屑は再び漉き返されるとしても、それは質も落ちるし何よりも分めりがする。出来るだけ断ち屑を少くするために、九寸三分判の障子紙などは、天地僅かに一寸延びに漉き上げられているので、截断鉋丁の一厘の狂いも許されなかった。一方、何百枚かどっしりと重ねられた日本紙の大判は、そうしたひき緊った截断者に呼応するかのように、何か圧倒的な気品のある光沢を放っているのだった。

が、この截断にかかろうとする時の惣次郎自身の胸の奥には、家人の誰もが気付いていないように、無論としゑなどには覗い知るべくもない、深い喜びが湧き起っているのであった。

惣次郎は、截ち方にかかる前に、必ず何遍か紙の裏表を撫でてみては、彼独りの感慨にひたるのだった。これは惣次郎の楽しい秘密と言ってもよかった。友太が出征中二年前まで、自分が漉いていたものと、今友太が漉く紙とに寸分の違いもないのである。いつかそれを妻に話すと、そんなことは当り前で、友太の腕が父と同じまでに上達した証拠に過ぎないと、至って簡単にあしらわれてしまってからは、再び口には出さないことにした。しかし惣次郎にとっては、とうていそんなことでは済まされないものがあるのだった。