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わし
和紙
東野辺 薫
「東北文學」1943(昭和18)年4月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 35,557 字 · 70 页
それでも、葬式が済んでから友太にそう言われると、んだども、おらだってお父さの分まで稼ぐつもりよと、すっかり身うちの力が落脱している気持とはうらはらの答えをした。
「漉返し」をはじめた時代から、どうやら今日の日を築いたまでのことを考えると、ここでぽっかり死んで行った夫が限りなくいとおしかった。夫と友太を捨てたお君という女が、チブスに罹って死んだ噂も幾年か前何かの便りで聞いていたが、今までは心に浮かんでくることさえなかったのに、惣次郎が死んでからというものは、どうかするとひょっと思い出すのであった。またあの世で夫と顔を合わせているのだろうか。いや、あんないい夫を捨てて逃げるようなよくよく馬鹿な憎い女とは、夫のいる世界はきっと別であるに違いないと思った。
「ほんとによ、孫の顔も見ねえで死ぬなんて、お父さも馬鹿お父さだったものよ。」
紙付けをしながら、おときはぶつぶつと独り言をするのだった。三月も末になると紙の乾きは目立って早くなってきた。始終乾板に追われながら、よしにも手伝わせて、土間と庭を往復する昼のうちはそれでもいいのだが、夜になると何とも堪えかねる寂寥に襲われた。