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うそアつかねえ

嘘アつかねえ

山本 周五郎

「オール読物」文藝春秋新社、1950(昭和25)年12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 12,523 字 · 24 页

青空文庫

でそいつをよく見たんだ、おれのこの眼でよ、旦那、おらあこれだけは旦那に云わずにゃアいられねえ」

「おれの父は温和しい人間だった」松は舌ったるく話しだした、「――酒も煙草もろくろく口にしねえ、桶屋だったが、腕はよかった、仲間の職人からそねまれるくれえの仕事をした、浅草橋からこっちの番手桶は父でなくッちゃあならねえ、と云われたくれえなんだが、仏性で、……そこは自分でもじれったかッたらしい、頭がこすくまわらねえ、仕事にはばかな念をいれるが、どうしてもあこぎな銭が取れねえ、おまけに人を騙すより騙されるッてえ、くちだった。……いくら腕がよくッたって、それじゃア蔵の立つ道理はねえ、蔵どころか、正直のところ女房子に満足な着物も着せられなかった」

松の話はたどたどしく、前後したり、つじつまの合わないことがとびだしたり、同じことを繰り返したりした。だがそのために却って誇張のない実感が感じられた。……信吉には一人の愚直な職人の姿がみえるようであった。そこにいる松のような、肉の緊らない躯つきで、眼尻の下ったまるっこい顔で、いつも諦めたような卑屈な笑いをうかべている。仕事の腕はあるが、頭が悪いので人に利用され、ばかにされるだけである。