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よっかのあやめ

四日のあやめ

山本 周五郎

「オール読物」文藝春秋新社、1954(昭和29)年7月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 19,200 字 · 38 页

青空文庫

五

うち消そうとしたが、源左衛門の口ぶりはあまりに明確だし、深松がそんなことで嘘を云うとは思えなかった。主税介は狼狽し、珍しく吃りながら低頭した。

「申し訳ありません。これはなにかのゆき違いでございましょう」彼は云った、「唯今のお願いはお忘れ下さるよう、またできることなら御内聞にお頼み申します」

源左衛門はよろしいと頷いた。

その夜、主税介は寝所へ入るまえに、妻を呼んでそのことを訊いた。家士たちのことは頭にうかばず、ふしぎに「妻だ」という感じがした。はたして、千世はそうだと答えた。

「すると深松は知らせに来たのだな」

「はい、おみえになりました」

千世は悪びれなかった。むしろこういう時の来るのを期していたかのように、良人の眼をまともに見あげた。

「どうしてそれを取次がなかった」主税介はけんめいに感情を抑えていた、「云ってごらん、なぜ私に黙っていたのだ」

「申上げてはならないと存じました」

五

主税介は妻の眼をにらんだ。千世は眩しくなって眼を伏せた。

「なぜだ」と主税介が云った。

千世は口ごもった。しかしひるんだのではない、良心に疚しいところはなかった。

「わたくし以前から、徒士組と不和の話は聞いておりました」