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よっかのあやめ

四日のあやめ

山本 周五郎

「オール読物」文藝春秋新社、1954(昭和29)年7月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 19,200 字 · 38 页

青空文庫

――主税介はそれをはっきりと感じはじめた。それは遠くから眼に見えない速度で、だんだんに縮まり、彼の周囲をせばめ、彼を孤立させるようであった。

千世は知らなかったろうか。彼女もむろん知っていた、良人のようすを見るだけでもわかるし、じかに自分で聞くこともあった。

――人はみかけによらないものだ、いざとなってみなければ、人間の本性はわからないものだ。

千世の耳に届くところでしばしばそういう評がとり交わされた。故意にか、偶然にか、彼女はしばしばそういう言葉を聞いた。――彼女の苦しさは二重であった。当然それが良人の耳にもはいっているだろうことと、その責任が良人にではなく自分にあるのだということとで、……もともと夏痩せをするたちではあったが、秋風の立つ頃には、千世は見ちがえるほど痩せてしまった。

十月初旬、監物忠辰は参覲のため出府した。その出府の直前に、籠崎大洲の件(表向きは狩場の出来事として)の裁決があった。それまでの経過で、ひどい重科に問われるだろう、という予想はなくなっていた。場所が狩場に変えられたのと、私闘という点が黙殺されたのとで、相当にゆるやかな処置がとられるだろうと考えられていた。