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よじげんひょうりゅう

四次元漂流

海野 十三

「子供の科学」1946(昭和21)年3月~1947(昭和22)年2月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 63,363 字 · 128 页

青空文庫

貧乏でもないらしいというわけは、この老浮浪者は、頭には色こそきたなく形こそくずれているが灰色の大きな中折帽子をかぶって、そのつばを下げ、額から耳のあたりから頸のうしろまですっぽりかぶっていた。服は、長いだぶだぶのレーンコートを着ていたが、質はよいと見え、破れている箇所は一つもなかった。そしてコートの奥にはカーキ色の服ともシャツともつかぬものを着ているらしく、はでな赤いネクタイをむすんでいた。靴も、大きなゴム長をはいていて、雨であろうと天気であろうとぬがなかった。彼はポケットから、大きな懐中時計をだしてみることもあり、また時には店へ入りこんで、大きな皮手袋をはめた手の上に十円紙幣などを乗せて塩を買ったり酢を買ったりする。そういうところは、けっして浮浪者ではないように見えた。

「そういえば、あの年寄りの浮浪者は、いつだか、木見さんのお邸のまわりをうろついていたわね」

塀のかげで、三人のお手伝いがこの話をしている。

「そうよ。裏手へまわって、あの空地のあたりから、雪子さんの研究室の方を、のびあがって見ていたわ」

「怪しい浮浪者だわね。そうそうあの人はよくあの裏手の空地にある大きな銀杏の樹の上にのぼって昼寝していることがあったわよ。