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ちはゆたかなり

地は饒なり

宮本 百合子

「中央公論」1918(大正7)年1月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 28,874 字 · 57 页

青空文庫

ユーラスは、すっかりびっくりしてしまいました。今まで、こんな様子を見たことのなかった彼は、まるで幻を見るような心持で、フラフラと水上の方へと歩いて行きました。

行けば行くほど広くなる谿は、いつの間にか、白楊や樫や、糸杉などがまるで、満潮時の大海のように繁って、その高浪の飛沫のように真白な巴旦杏の花が咲きこぼれている盆地になりました。

そして、それ等の樹々の奥に、ジュピタアでもきっと御存じないに違いないほど、美くしい者を見つけたとき、ユーラスは、もう息もつけないような心持になりました。

天鵝絨のように生えた青草の上に、蛋白石の台を置いて、腰をかけた、一人の乙女を囲んで、薔薇や鬱金香の花が楽しそうにもたれ合い、小ざかしげな鹿や、鳩や金糸雀が、静かに待っています。

そして、台の左右には、まるで掌に乗れそうな体のお爺さんが二人、真赤な地に金糸で刺繍をした着物を着、手には睡蓮の花を持って立っています。あたりには、龍涎香を千万箱も開けたような薫香に満ち、瑪瑙や猫眼石に敷きつめられた川原には、白銀の葦が生え茂って、岩に踊った水が、五色のしぶきをあげるとき、それ等の葦は、まあ何という響を立てることでしょう。