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じごくふうけい
地獄風景
江戸川 乱歩
「江戸川乱歩全集付録冊子 探偵趣味」平凡社、1931(昭和6)年5月10日~7月10日、9月10日~1932(昭和7)年1月8日、3月10日<br>メリー・ゴー・ラウンド以下「江戸川乱歩全集 第十一巻」平凡社、1932(昭和7)年4月10日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 53,774 字 · 108 页
皆アリバイが成立した。誰も彼も一人位は証人を持っていた。
傭人達も、夫々持場についていたことが明かで、疑わしい者はなかった。
「湯本譲次さんは、大鯨の体内にいた相です。三谷二郎君は、林の中を歩いていた相です。それから園内監督の餌差宗助君は、どっか、山の上をぶらついていたと云います。この三人丈けは本人の申立てです。誰もそれを見たものはない。つまり証人がないのです」
刑事が意味ありげに云った。
「エ、するとあなたは、その三人の内に……」
治良右衛門がびっくりして、相手の目を見た。
「イヤ、そう云う訳ではありません。私はただ事実を繰返して見たまでです。誰を疑っている訳でもありません」
云いながら彼はチラと傭人の食卓を眺めた。その視線の先に、醜い一寸法師の餌差宗助が、猫背になって、皿を嘗める様にして、食事をしていた。
「イヤ、あの男は、恐ろしい形をしていますが、ごく正直者です。最も信用すべき人物です」
治良右衛門がとりなし顔に囁いたけれど、刑事は、子供だか老人だか見分けのつかぬこの怪物を、一種の疑惑を以て眺めないではいられなかった。
彼は次に同じ食卓の向うの端にいる湯本譲次をチラッと上眼使いに見た。