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つぼ
壺
山本 周五郎
「講談雑誌」博文館、1940(昭和15)年10月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 16,624 字 · 34 页
ていた封建制のなかで、旗本と大名という対立がその出来事を中心にひとつの渦紋を巻きおこしたのだ。幕府の機宜の扱いで大事には至らなかったが、河合を討ったとなると、その庇護をしていた旗本たちが、荒木、渡辺らを覘うのは必定と思われた、そこで幕府はひそかに上野城主である藤堂大学頭(高次)に二人の保護を命じた、ほとぼりのさめるまで匿えという意味である。藤堂家がよろこんで承知したのはいうまでもない、寧ろそのまま家臣に抱えてしまいたかったのだろう、鄭重な客分あつかいで、又右衛門は屋敷を与えられ、なお家中の士に刀法の教授を依託された。復讐のときにも藤堂家からはかげの助力を受けたし、懇切をきわめたこの待遇にあって、又右衛門は少なからず困惑した、それは旧主である本多氏の恩義と、藤堂家への義理との板挾みになったからだ。新宮への旅は、その去就をきめるために気持のいとまを求めて来たのである。
万字屋を出て町筋を北へ、まっすぐにゆくと熊野川の流れへつきあたる、そこを少しさがると、殆んど川に沿って日和山と呼ばれる小高い丘陵があった。おぬいは気もそぞろのようすで、後から来る