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つぼ
壺
山本 周五郎
「講談雑誌」博文館、1940(昭和15)年10月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 16,624 字 · 34 页
四
ものと思える、起居のけはいと声音を聞いただけであるが、おちついた底ぢからがよく感じられた、――七郎次は斬られるかも知れない、かれもそう考えていたところだ、……しかしそれは七郎次がみずから求めたものである、斬られるとしてもおそらく悔いはあるまい、そう思いきっていたのだが、女の一念をこめた、けんめいな顔色を見るとやはり捨てては置けなかった、「わたしにそのちからがあるかどうかわからないが」そう云ってかれはしずかに立った、「とにかくゆくだけはいってみよう、果し合の場所は知っておるか」救いのひと言である、「ありがとうございます」おぬいの顔が耀くようにみえた、「場所はいつも日和山ときまっています、ご案内を申します」
四
木村外記というのは仮名である、おぬいのいうとおり本名は荒木又右衛門だった、かれがどういう人物かということは改めて記すまでもないだろう、だがどうしてこんなところへ来ていたかというと、……その前年、すなわち寛永十一年十一月、かれは義弟に当る渡辺数馬の助け太刀として、伊賀のくに上野の鍵屋の辻で河合又五郎はじめ数名の者を斬った。これは仇討ではあるがほかの場合のように単純ではなかった、河合の党には徳川はたもとの庇護があったし、渡辺、荒木らには大名のうしろだてがついていた、つまりようやく固定しかかっ