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つぼ

壺

山本 周五郎

「講談雑誌」博文館、1940(昭和15)年10月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 16,624 字 · 34 页

青空文庫

七

七

かれは食事も満足にはとらなかった、一日じゅう鍬を手にして息をつこうともしない、五日、十日と経つうちに、暑さとはげしい疲れとでみるみる痩せてゆく、ふだんから無口だったのがこの頃はまったく黙りきりで、なにを云いかけても返辞ひとつしなくなった、げっそりと頬がこけて日焦けのした骨立った顔に、眼ばかりぎらぎらときみ悪く光っている、このままではいまに倒れてしまう、おぬいは見るに堪えなくなった、なんとかしなければならぬと思い、いろいろ考えたあげく、或る夜そっと寝所をぬけだし、身じたくもそこそこに鍬を持って外へ出た、時刻はもう十二時をまわって、しんかんと更けた夜気はおもたく露を含んでいた、足音をぬすむようにして裏木戸から出ると、さいわい空いちめんの星明りで、昼の温気が凝って漂うのであろう、朦朧と地を這う靄のなかに、妖しい巨人のような一本杉の立っているのがおどろおどろしく見える、……おぬいはすでに露のおりている草を踏みわけながら、七郎次の掘りかけていた場所へたどり着くと、裾をきりりと端折って鍬をとり直した。するとまるでそれを待っていた