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つぼ

壺

山本 周五郎

「講談雑誌」博文館、1940(昭和15)年10月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 16,624 字 · 34 页

青空文庫

又右衛門を見かえり見かえり、胸をつくような急坂を登っていったが、やがて左手に台地のひらけているところまで来ると、なにやら叫びながらそこへ立ち竦んでしまった、立合はもう始っていたのである、……叢林をきりひらいた五百坪ばかりの草原のまん中に、七郎次が木刀を構えて仁王立ちになり、それに対して中年の武士の一人が真剣を抜いていた、伴れの二人は少しはなれて両者のほぼ中間に立ち、息を凝らせて立合のようすを見まもっている、森閑とした草原とこの闘争の人々の上に、さんさんとふり濺ぐ冬の日光は眩しいほどに思えた。

「……しずかに」又右衛門はおぬいを制して傍らの松の木蔭へ身をよせた、「こえをたてぬよう、暫く見ているがよい」「でも大丈夫でございましょうか……」又右衛門は答えなかった。かれは七郎次の身がまえのすばらしさにおどろいたのである、法はずれではある、我流がむきだしには違いない、しかし無ぞうさに中段へつけた木刀、籠手をひき半足に踏みひらいた躰勢には、田宮流の「むちむすび」というかたがもっと単直にあらわれている、それは本吉権之允の稽古から自得したものであろう、烈々たる