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つぼ

壺

山本 周五郎

「講談雑誌」博文館、1940(昭和15)年10月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 16,624 字 · 34 页

青空文庫

二

の一節を低く口ずさみながら、小窓の障子をしずかに閉め、手を伸ばしてそっと茶碗をとりあげた。

二

午餉の膳に向ったとき、外記はふしぎな若者のことを婢に訊ねた、「……ああ瘤七のことでございますね」お島は得たりと坐り直した、まるでさあしゃべれるぞと云わんばかりのいきごみである、「瘤七と申しましても瘤があるわけではございません」まず赤い唇を舌で湿してからお島は話をはじめた。……若者の名は七郎次という、新宮から熊野川を二里ほど遡った御船という在の農夫の三男であるが、幼い頃からすぐれて力がつよく、奉納相撲などでは近郷に知らぬ者がないくらい名がとおっていた。今から五年ほどまえ、かれは馬に米を積んで城下へ出て来たが、二人づれの旅の武士とゆきちがったとき、なにか無礼があったとか無いとかいうことから争いになった。ほかの者ならあやまって通るところだったろう、ちから自慢のかれは旅の武士だとみて喧嘩を買って出た、そして足腰の立たぬほど叩き伏せられた。戸板で舁かれて家へ帰ったが、五十日ほどは出あるきもならぬありさまだったのである、その間じゅう、かれは寐ても覚めてもそのときの口惜しさを罵りつづけた、――こんなめに遭う