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かわる
変る
豊島 与志雄
「知性」1942(昭和17)年4月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 6,972 字 · 14 页
大五郎は首を垂れた。そこに、餉台の上に、村井の大きな握り拳があった。ばかに力がありそうな大きな拳だ。
「ほほう、大きな拳ですな。ムッソリーニの拳に似てますな。」
村井は手を引っこめて、掛時計を仰ぎ見た。
「もうそろそろ時間ですよ。だいぶ酔いましたね。」
それから、低いそして強い声で囁くようにいった。
「あまり度々、この近所を荒し廻らないがいいですよ。飲むなら、銀座あたりに出かけたらどうですかね。」
大五郎はふらふらと立上った。ゆっくりと丁寧に靴の紐を結んだ。会社員らしい一人の客と春枝と、くすくす笑いあっていた。その方を、大五郎はつっ立ってじっと見たが、黙って表へ出て行った。
彼の頭に、また大きな犬の姿が浮んだ。浮んでは消え、消えてはまた浮んだ。彼はその姿を追っかけて、胸の中で、声には出さないで、犬の吠え声をまねた。ふらふらした足取りが、その吠え声に調子を合せた。
電車通りを、宿泊してる親戚の家の方へ辿っていると、薄暗い並木の蔭に、小さな男の姿が立っていた。彼はその小男の姿と向きあって立止り、じっと睥めくらをしてるうち、ふしぎな憤りを感じて、拳をかため一撃した。