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なつめせんせいのついおく

夏目先生の追憶

和辻 哲郎

「新小説」1917(大正6)年1月臨時号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,272 字 · 21 页

青空文庫

一三

(その実は製作の興奮のため徐々に身体を疲労させたのであったろうけれど。)

先生が製作によって生の煩わしさを超脱する心持ちは、私の記憶では、『草枕』や『道草』などに描かれていたと思う。

一三

私はきわめて概括的な、そのくせバラバラになった観察を書いた。もともと先生の芸術について適切な評論をなし得ようとは思っていなかったから、これくらいで筆を擱きたい。

先生の芸術についてはなお論ずべき事が多い。私は先生が「何を描こうとしたか」について粗雑な手をちょっと触れたのみで、「いかに描いたか」の問題には全然触れなかった。そこへはいればとても容易に出られないと思ったからである。それに、私の今の心持ちはただひたすら先生の人格に引きつけられている。先生の技能が提供するさまざまの興味ある問題は、たとえその興味が非常に深かろうとも、今直ちに私の心の中心へ来る事ができない。しかしそのために読者諸君の注意をこの方向へ向けて悪いというわけは少しもない。私は先生の死に際して諸君が先生の全著書を一まとめにしてあらためて鑑賞されんことを希望する。そうしてここに説いたような先生の人格と生活との表現がいかなる姿とリズムによって行なわれているかを子細に検せられんことを勧告する。