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なつめせんせいのついおく

夏目先生の追憶

和辻 哲郎

「新小説」1917(大正6)年1月臨時号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,272 字 · 21 页

青空文庫

私はそれを明らかにするために先生の手紙の一節を引く。――

「……私は進んで人になついたりまた人をなつけたりする性の人間ではないようです。若い時はそんな挙動もあえてしたかも知れませんが、今はほとんどありません。好きな人があってもこちらから求めて出るような事は全くありません。……しかし今の私だって冷淡な人間ではありません。……

「私が高等学校にいた時分は世間全体が癪にさわってたまりませんでした。そのためにからだをめちゃくちゃに破壊してしまいました。だれからも好かれてもらいたく思いませんでした。私は高等学校で教えている間ただの一時間も学生から敬愛を受けてしかるべき教師の態度をもっていたという自覚はありませんでした。……けれども冷淡な人間では決してなかったのです。冷淡な人間ならああ癇癪は起こしません。

「私は今道に入ろうと心がけています。たとい漠然たる言葉にせよ、道に入ろうと心がけるものは冷淡ではありません。冷淡で道に入れるものはありません。」

それは先生の前に怯懦を去った時直ちにわかったことであった。先生はむしろ情熱と感情の過剰に苦しむ人である。相手の心の動きを感じ過ぎるために苦しむ人である。