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なつくさせんき

夏草戦記

山本 周五郎

「講談雑誌」博文館、1943(昭和18)年3月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 21,107 字 · 41 页

青空文庫

四

、弥兵衛はそれでもと押しつける気はなかった。ではいいから今のまましっかりやれと云い、新九郎の去ってゆくうしろ姿を見送りながら「いい若者だな」と呟いた。まじめな、よごれのない顔つきだし、口の重そうな、いかにも北国人らしい厚みのあるひとがらが温かく印象にのこる。初という娘とその父親を救ったことなどはさして問題ではないけれども、隊士のなかでも誰ひとり知らぬらしいのがゆかしく思えた。……ああいう者がいざというときにめざましくはたらくのだ、白石の合戦には眼をつけていてやろう。弁当をつかいながら、弥兵衛は心たのしくそんなことを思いつづけるのだった。

四

戻って来た新九郎をみると、相良官兵衛が呼びとめて「なんの用だった」と訊いた、新九郎はありのままを答えた。官兵衛は顎骨の張った眉の太い、唇をいつもへの字なりにひきむすんでいる頑固そうな男で、なにか気にいらぬことがあるとぺっぺっと唾を吐きちらす癖があった。かれは今もその癖を出しながらひどく気にいらぬげに鼻を鳴らした、

「冗談じゃない、尖隊からおまえを抜かれて堪るものか、しかしそれで済んだんだな」

「はい元のままでよいことになりました」