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なつくさせんき

夏草戦記

山本 周五郎

「講談雑誌」博文館、1943(昭和18)年3月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 21,107 字 · 41 页

青空文庫

……かれが相良隊にとどまりたいと主張したのは、はたらくかいがあるという単純な理由だけではなかった、三度めの宿営地で敵の夜がけをくったときかれはふとある疑いを感じたのである、この隊が白石へ強行することは隠密で、伊達の本隊でも知っている者は少なかった、しかも山峡の知られざる間道をゆくのだから、よし敵が探り当てたにせよ、かくまで正確に宿営地を襲うことは尋常では不可能な筈だ。もちろんその点は誰しも不審だったろう、けれども敵地のなかを潜行してゆくという事実がそのくらいの抵抗は予想させたから、損害をできるだけ少なくしようと努めるほかにはあまり関心をもつ者がなかったのである。新九郎はそうではなかった、かれは「内通者」ということを疑ってみた、隊士のなかに敵へ内通し、宿営地のてびきをする者があるのではないか、乱世のことでほかに例のないことではなし、ことに隊士たちは多くこの附近から北へかけての出身である、上杉領にふかい縁故のある者もいよう、そう考えてみると敵の夜襲の正確さがますます疑わしくなる、そこで新九郎はひそかに戸田源七とはかって隊士たちを監視しはじめた。源七は同郷の古い友達で、かれより一歳だけ年長だったが自分では新九郎のひとがらに敬服して兄事していた。