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よあけまえ

夜明け前

島崎 藤村

04 第二部下

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 105,172 字 · 206 页

青空文庫

御酒の好きな方には、お口に合うかもしれません。一つ召し上がって見てください。」

「奥さん、この前もわたしは中津川の連中と一緒に一度お訪ねしましたが、しかしお宅の皆さんにしみじみお目にかかるのは、今度初めてです。よいお嬢さんもおありなさる。」

正香の口から聞けば、木曾のような水の清いところに生い育つものは違うというようなことも、そうわざとらしくない。お民は自分の娘のことを客の方から言い出されたうれしさに、

「おかげさまで、あれも近いうちに伊那の方へ縁づくことになりました。」

と言って見せた。

正香も伊那の放浪時代と違い、もはや御一新の大きな波にもまれぬいて来たような人である。お民が店座敷から出て行くのを見送った後、半蔵は日ごろ心にかかる平田一門の前途のことなぞをこの先輩の前に持ち出した。

「青山君、あれで老先生(平田鉄胤のこと)も、もう十年若くして置きたかったね。」と正香は盃を重ねながら言った。「明治御一新の声を聞いた時に、先生は六十七歳の老年だからね。先生を中心にした時代は――まあ、実際の話が、明治の三年までだね。」

「あの年の六月には、先生も大学の方をお辞めになったように聞いていますが。