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おおえどおうごんきょう
大江戸黄金狂
野村 胡堂
「新青年」1939(昭和14)年11月~12月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 26,754 字 · 53 页
第一の手紙
第一の手紙
山浦丈太郎は、不思議な手紙を受取りました。その意味は――。
其方は人を殺した。それはお家の奸臣を除くためであったとしても、人間一人の命を絶ったことには何んの変りもない、其方も武士なら、来る八月の十五日箱根の間道を登って、太閤道の辻堂の前に、日没と一緒に立つがよい。その方を親の敵と狙う、万田龍之助は父祖由緒の地に其方を迎えて、敵名乗をあげるだろう。最早主家帰参の望も絶えた其方だ、潔よく龍之助に討たれて、孝子の志を遂げさせるがよい。若し逃げ隠れするに於ては、この旨日本六十余州の津々浦々に伝え、百代の後までも、其方を卑怯者の見本として、物笑いの種にするであろう。
かなり手厳しい文句ですが、真四角な字を書いているくせに、何処かに優し味があって、女文字らしい匂いがあります。
「馬鹿奴ッ」
山浦丈太郎は、その手紙を掌の中で揉んでポイと捨てました。腹の底からコミあげて来るのは、我慢のならないいまいましさです。
三年前まで、小田原の城主大久保加賀守に仕えて、百五十石を食んだ山浦丈太郎は、箱根の関所の役人をしている時、同役万田九郎兵衛の容易ならぬ非曲を発見し、面責して恥しめられ、訴えて聴かれなかったので、腹を据え兼ねて万田九郎兵衛を斬って捨て、江戸に飛出して、心細い浪人生活を続けているのでした。