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おおえどおうごんきょう

大江戸黄金狂

野村 胡堂

「新青年」1939(昭和14)年11月~12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 26,754 字 · 53 页

青空文庫

「心得て居る」

山浦丈太郎は悪びれた色もありません。

「まあ。――尤も、関所の御役人だった旦那が、そんな事を御存じがない筈はありませんわねエ」

「何?」

山浦丈太郎はさすがにギョッとしました。

「それを承知の上で、間道へ踏み込むのは」

「お前は何んだ、――見たことがあるような」

「お忘れになりまして」

又ニッコリ、浅黒い顔、美しくもない髪容ち、木綿物の地味な袷を着て居りますが、ニッコリすると、箱根中がカッと、明るくなるような魅力です。

「白糸のお滝ではないか」

この素晴らしい笑顔で、山浦丈太郎は漸く思い出したのです。滝見の茶屋で、愛嬌を売物にして居た、箱根名物のお滝、小田原の家中の若侍が、どんなにこの女一人を話題にして騒いだことでしょう。

それにしても、以前と少しも変らぬ若さと愛嬌は何んとしたことでしょう。三年前のお滝は十九か二十歳に見えましたが、三年後の今近々と顔を合せても、二十歳よりあまり上とは思われません。

「まア、嬉しいワねエ」

そう言って又ニッコリする様子は、曾てのお滝より、少しばかり物馴れて見えるだけのことです。

「何処へ行くのだ、いきなり藪から顔なんか出して、驚くじゃないか」