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おおえどおうごんきょう
大江戸黄金狂
野村 胡堂
「新青年」1939(昭和14)年11月~12月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 26,754 字 · 53 页
「貝六は俺だよ、江戸から箱根までの間に、憚り乍ら貝六という人間は俺より外にはねえ筈だ。厄介のけえ六なんて、人面白くもねえ、誰がそんな名前を付けやがったんだ」
「それ見ねえ、やっぱり厄介の貝六じゃないか。それよ、手紙は確かに渡したよ。お駄賃がうんと出ているんだ。あとで受取らねえなんて言っちゃおいらの落度になるぜ」
「何を小僧奴」
厄介の貝六は小僧から手紙を受取ると、クルクルと巻き込んだ半切を開いて行きました。美しい仮名文字が五六行、
「読めるかい、親分」
「何をッ」
「その手紙が読めるか――てんだよ、皆んな仮名で書いてあるじゃないか、そいつが読めなかった日にゃ――」
小僧は傍を向いて赤い舌をペロリと出しました。
「何をッ、陽が影って、少し薄暗いから読めねえや」
「うまく言うぜ、――読んで上げようか親分」
「何をッ」
厄介の貝六は負け惜しみを言い乍らも、小僧の手に手紙を渡す外はありません。
「面白いことが書いてあるぜ、けえ六親分」
「何を」
「親分は見かけに依らない色男だね、ウ、フフフ」
「一人で笑って居ずに、さっさと読みやがれ。何時までも眺めて居ると、手前の涎で手紙の字が伸びるぜ」