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たじゅうとそのいぬ

太十と其犬

長塚 節

「ホトトギス」1910(明治43)年2月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 15,769 字 · 32 页

青空文庫

体がへなへなとして見える。大勢はそこここから仮声を出して揶揄おうとする。こういう果敢ない態度が酷く太十の心を惹いた。大勢はまだ暫くがやがやとして居たが一人の手から白紙に包んだ纏頭が其かしらの婆さんの手に移された。瞽女は泊めた家への謝儀として先ず一段を唄う。そうして大勢の中の心あるものから纏頭を得て一くさり唄うのである。三味線の胴が復た膝にもどった。大勢は森とした。其一くさりが畢ると瞽女は絃を緩めで三味線を紺の袋へ納めた。そうして大きな荷物の側へ押しやった。大勢はまたがやがやと騒がしく成った。其時夜は深けかかって居た。人はだんだんに去って狭い店先はひっそりとした。太十はそれでも去らなかった。店先へぽっさりと独で立って居ることは出来ない。横手の流元の引窓から彼は覗いた。唯一つの火鉢へ二三人が手を翳して居る。他の瞽女はぽっさり懐手をして居る。みんな唄の疲が出たせいか深い思に沈んだようにして首をかしげて居る。太十は尚お去ろうともしなかった。突然戸が開いた。太十は驚いて身を引いた。其機会に流し元のどぶへ片足を踏ん込んだ。戸を開けたのは茶店の女房であった。太十は女房を喚び挂けて盥を借りようとした。