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めおとのあさ

夫婦の朝

山本 周五郎

「婦人倶楽部」大日本雄辯會講談社、1941(昭和16)年3月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,008 字 · 22 页

青空文庫

四

「……やっぱり、いけなかった」

良人の言葉がふと唇に出た。

お由美は自分の呟きにはっと気付いて、きらきらと光る眼を大きく瞠きながら、玄関の庇越しに空を見上げたが、

――そうだ、このひまに。

と頷いて立上った。

着替えをするのももどかし気に、急に入用の買物があるからと云い残して家を出ると、七軒町の辻で駕を拾いそのまま田原町の料理茶屋「桔梗」へと急がせた。

四

お由美が入って行ったとき、その部屋では風態の悪い三人の男が酒を呑んでいた。

いつぞやの新五郎と名乗る浪人者の他は、二人とも破落戸と見える男で、お由美が入って来たのを見ると、卑しい愛相笑いをしながら、なにやら執持でもするという風に、襖を明けて何処かへ立去った。

お由美は蒼白く、ひきつったような硬い表情で、立ったまま先刻の書面を取出し、

「これ、お返し申します」

と投げ出した。

「まあお坐りなさい」

新五郎は嗄れた静かな声で云った、「立っていたって仕様がない、火の側へ寄って先ず手でも煖めたらいいでしょう」

「これで結構です、……沼部さま」

お由美は怒りを抑えながら、

「貴方は先日お約束なすったことをお忘れではございますまいね、わたくし良人のある躰でございますのよ、……貴方がお躰を悪くして其日の生活にも困ると仰有ったので、わたくし出来ないことを無理にして差上げたのです