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めおとのあさ

夫婦の朝

山本 周五郎

「婦人倶楽部」大日本雄辯會講談社、1941(昭和16)年3月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,008 字 · 22 页

青空文庫

嫁して来て足掛け三年、苦労を知らぬ明るい気質で、眉を顰めることなど一度もなかったお由美である、それが今宵はすっかり取乱し、唇の色もなく、黝い大きな眸子までが哀願の顫えを帯びていた。

「いいとも」

三右衛門は無造作に頷いた。

「半之助だってもう二十一歳になる、自分でそう云うほどなら本当に眼が覚めたのだろう、では拙者は知らぬ積りにしているから、おまえ熟く云い聞かせて今度こそ武士らしく立直るように云ってやるがいい」

「有難う存じます」

お由美の眼にふっと泪が溢れた。

「御迷惑を掛けまして、本当に申訳ございません」

「なんだ、可笑いぞ泣いたりして」

三右衛門は微笑しながら箸を措いた。

「おまえの弟なら拙者にも弟だ、改って礼を云うなんて他人行儀だぞ、このくらいのことで半之助が武士に成れれば仕合せではないか、……然し、今夜は※(「魚+雷」、第4水準2-93-86)魚が来たり半之助の信があったり、ふしぎと故郷に縁のある日だったな」

お由美はそっと泪を拭きながら、

――嬉しゅうございます。

と心の裡に呟いていた。

その明くる日、勤めから退出して来た三右衛門は、妻が珍しく薄化粧をし、自分の好きな着物を着てけざやかに微笑しながら出迎えたのを見て、ほうと眼を瞠った。