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おんなはおなじものがたり
女は同じ物語
山本 周五郎
「講談倶楽部」大日本雄辯會講談社、1955(昭和30)年1月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 21,279 字 · 44 页
要平は「あ」と云ってとびさがった。三間ばかりとびさがったが、とたんに袴と帯がずるずると下り、着物の前がはだかってしまった。要平は仰天し、片手でずり下った袴を押えながら「待った」と叫んだ。
「いや待たん」と広一郎が云った、「真剣勝負に待ったはない、ゆくぞ」
要平はうしろへしさった。広一郎は刀を上段にあげ、一歩、一歩とつめ寄った。
「待ってくれ」と要平が云った、「これでは勝負ができない、これでは」
「勝負はついたぞ」
「頼むから待ってくれ、あっ」
うしろへさがろうとした要平は、ずり落ちた袴の裾を踏んで、のけざまに転倒した。広一郎は踏み込んでゆき、上から、要平の鼻さきへ刀の切尖をつきつけた。
「どうだ」
要平は口をあいた。
「斬ろうか」と広一郎が云った。
要平は「まいった」と云った。
「慥かだな」
「慥かだ」と要平が云った、「しかし、おれにはわけがわからない、まず聞かせてくれ、いったいこの勝負はなんのためだ」
「茗荷屋の娘だ」と広一郎が云った。
要平はぽかんと彼を見あげた。
「きさまからの縁談を、娘ははっきり断わった筈だ」と広一郎は云った、「にも拘らずきさまは諦めない、たぶん中老という家格と、自分の悪名にものをいわせようというんだろう、しかしそうはさせぬ、おれがそうはさせないぞ」