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おんなはおなじものがたり
女は同じ物語
山本 周五郎
「講談倶楽部」大日本雄辯會講談社、1955(昭和30)年1月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 21,279 字 · 44 页
三
広一郎は始めから終りまで、侍女のほうへは眼も向けず、着替えが済むのを待ちかねたように、父と共同の書斎へはいってしまった。
竜右衛門はなにか書きものをしていた。たいへん熱心なようすで、息子がはいって来ても黙って書き続けていた。
「あれはどういうわけですか」と広一郎が囁いた、「私に侍女を付けるなんて、いったいどういうことなんですか」
「おれは知らないね」
「御存じないんですって」
「知るわけがないさ」と父親は云った、「済まないが行燈をもう少し明るくしてくれないかね」
広一郎は行燈の火を明るくした。竜右衛門は書きものに熱中していた。少なくとも、そうやって息子の質問を避けようとしていることだけは慥からしい。広一郎はそれを理解し、唇で微笑しながら、父とは反対のほうに据えてある(自分の)机の前に坐った。
やがて、紀伊が茶道具を持ってはいって来た。彼女はおちついた動作で煎茶を淹れ、広一郎の脇へ来て、それをすすめた。
「お茶でございます」と紀伊が云った。
広一郎は壁のほうを見たままで「ああ」と云った。
三
六月になった或る朝、広一郎は侍女の躯つきを見て好ましく思った。
――温雅な躯つきだな。