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おんなはおなじものがたり

女は同じ物語

山本 周五郎

「講談倶楽部」大日本雄辯會講談社、1955(昭和30)年1月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 21,279 字 · 44 页

青空文庫

四

「正直に云ってごらん」と広一郎は声をひそめた、「ごまかしてもわかるよ、なにがあったんだ」

すると、紀伊は泣きだした。

四

紀伊はそこへ坐り、両手で顔を掩って、声をひそめて咽びあげた。広一郎も坐った。すでに夜具がのべてあるので、低い声で話すためには、紀伊の側へ坐るよりしようがなかった。彼は紀伊の側へ坐った。

「云ってごらん、母が叱りでもしたのか」

「いいえ」と紀伊は頭を振った、「わたくし、おひまを頂くかもしれませんの」

広一郎はどきりとし「え」と云った。

「それは」と彼は吃った、「それはなぜです、どうして、なにかわけがあるのか」

「申上げられません」

「なぜ、なぜ云えないんだ」

「それも申せません」と紀伊は云った、「いつかはわかることでしょうけれど、わたくしの口からは申上げられませんの」

広一郎はまた吃った。

「それは縁談ではないか」

紀伊は答えなかった。

「縁談なんだね」と彼は云った、「云ってくれ、そうなんだろう」

紀伊は頷いて、もっと激しく泣きだした。広一郎はのぼせあがった。そんなにも近く坐っているので、彼女のあまい躰臭や、白粉や香油のかおりが彼を包み、咽びあげる彼女の声は、じかに彼の胸を刺すようであった。