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おんなはおなじものがたり

女は同じ物語

山本 周五郎

「講談倶楽部」大日本雄辯會講談社、1955(昭和30)年1月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 21,279 字 · 44 页

青空文庫

或る時やはり安永の庭で、つなが木登りをしていばっていた。例のとおり「あなたにはできないでしょう」と云う。そこで彼が登ると、あたしはもっと上まで登った、「あたし海が見えたわ」と云う。彼はさらに登った、すると海が見えなかったばかりでなく、枝が折れて墜落し、背中を打って気絶してしまった。

或る時は草の中の小径で、ここをまっすぐに歩いてみろと云う。蛇がいるんだろう。蛇なんかいないわ、もう冬じゃないの「臆病ねえ」と笑う。それでまっすぐに歩いていったら、落し穴があっておっこち、左のくるぶしを捻挫した。

「おまえ笑うのか」と広一郎が云った。

「わたくし笑いませんわ」

「いま笑ったようだぞ」

「笑ったりなんか致しませんわ、わたくし」

「数えればまだ幾らでもある」と広一郎は云った、「袋撓刀のこととか、背中へ甲虫を入れられたこととか、暴れ馬のこととか、お化粧をされたのを忘れて、そのまま帰って土蔵へ入れられたこととか、――なんだ」広一郎は話をやめて、向うを見た。縁側へ女中がやって来たのである。「こちらは梶さまか」と訊くので、そうだと答えると「お客さまがみえました」と云った。広一郎はぎょっとした。