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こうじんぶつ

好人物

佐々木 邦

「婦人画報」1925(大正14)年5月~12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 52,609 字 · 107 页

青空文庫

そんなにお腹がすくほどお歩きになったんなら、汗をかいていらっしゃるでしょう? お風呂の加減が宜しゅうございますから、一寸お流しなさいませ」

と安子夫人は八千代さんとお饒舌をしていて夕飯の支度が後れたとは言わず、先ずお風呂へ叩き込んで置いて取急ぐ積りだった。

「入ろうか。汗だらけだ。土地道楽は確かに運動になるね」

と千吉君は口車に乗って、入るとナカ/\出られないような微温湯へ飛び込んだ。

約一時間の後、

「そうして地所は何うでございました? 好いのが見つかりましたか?」

と安子夫人は淑かにお給仕をしながら尋ねた。

「買うのはもっと先のことゝして、お前に一つ相談がある」

「何でございますの?」

「彼方へ家を建てようと思って貸地を見て来た。今朝も大場君が言った通り実に好いところだよ。行って見て悉皆感服してしまった。地代は坪十銭で二百坪の二十円だ。安いものさ」

「あなたもう極めていらしったんですか?」

「いや、極めては来ないが、今度の日曜にお前と二人で見に行くことに極めて来た」

「不便でございましょう?」

「それがね、誰でも然う思うけれど、電車に乗りさえすれば東京だ。そして空気は好いし、周囲は広々としているし、生き延びるぜ。