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こうじんぶつ
好人物
佐々木 邦
「婦人画報」1925(大正14)年5月~12月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 52,609 字 · 107 页
箸にも棒にもかゝらないから、今の中にお諦めなさいとは決して申渡さない。しかし内藤夫人はもう何も耳に入らず、
「はあ、然様で。然様でございますか」
と同じことばかり繰り返していた。
「奥さま、申後れましたが、この春はお坊っちゃんでお芽出度うございました。内藤さんのところのように両方お揃いで真正に羨ましゅうございますわ」
と安子夫人は安全を期する為めに話題の転換を試みた。
「有難う存じます。私よりも主人よりも郷里の両親が大喜びで、早速見に参りましたのよ」
と橋口夫人が受けて、それから専ら御郷里の噂になった。
「それではお米を送って戴いたのは奥さまのお里でございますわね。お里がお米問屋ならこの上心丈夫なことはありませんわ」
と安子夫人が冗談を言った。
「いゝえ、士族の商法で、からきし駄目でございますよ」
と橋口夫人は諧謔を解さない。先刻お米のお礼を言った時も士族の商法と仰有ったように安子夫人は思い出した。
「宅の隣りに矢張り鶴岡の方がいらっしゃいます。木田さんと仰有いますが、御存知じゃございませんの?」
と内藤夫人が次いで言葉をんだ。
「木田さん? 存じませんわ」
「奥さまも鶴岡でございますのよ」