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こうじんぶつ

好人物

佐々木 邦

「婦人画報」1925(大正14)年5月~12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 52,609 字 · 107 页

青空文庫

「牧野さんは何と言って勧めたね?」

「何とも言やしない。突然見本を持ち込まれて否応なしさ」

「成程」

と橋口君は大いに参考になった。

「上達はしなくても、精神修養になれば宜いんだそうだよ。あれをやっていると気は確かに落ちつく」

と千吉君は、やっている以上、何か効験を探し出さなければならない。お附き合いで始めた道楽は往々斯ういう羽目に陥る。尤も千吉君のは最初から然うだったのである。

「しかし上達しなくちゃ楽しみがあるまい。すべて手先のことは子飼いからでなけりゃ駄目だね」

「然うだよ。殊にやりたくないことをやっているんだから、上手になる筈はない」

「絵は無理だよ。僕は見るのは好きだが、手は出せない。書だと何人でも子供の時分の下地があるから、いつ始めても継ぎ足し普請になるけれどもね」

「僕も書なら気がある」

「君の書は好いもの。そこで絵は益※(二の字点、1-2-22)不適当となる」

「何故?」

「絵かきに手かきなしというじゃないか?」

「しかし牧野さんの書は好いぜ」

「その分、絵が悪いんだろう。お師匠さんを貶しちゃ済まないが、牧野さんの南画は未だ人に教えるほど堂に入っちゃいない」