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いかなるほしのもとに

如何なる星の下に

高見 順

「文藝」1939(昭和14)年1月号~1940(昭和15)年3月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 119,508 字 · 236 页

青空文庫

第二回 風流お好み焼

その一軒の、森家惚太郎という漫才屋の細君が、ご亭主が出征したあとで開いたお好み焼屋が、私の行きつけの家であった。惚太郎という芸名をそのまま屋号にして「風流お好み焼――惚太郎」と書いてある玄関のガラス戸を開くと、狭い三和土にさまざまのあまり上等でない下駄が足の踏み立て場のないくらいにつまっていた。

「こりゃ大変な客じゃわい」

辟易していると、なかから、「――どうぞ」と細君が言い、その声と一緒に、ヘットの臭いと、ソースの焦げついた臭い、そういったお好み焼屋特有の臭いをはらんだ暖かい空気が、何やら騒然とした、客の混雑というのとはちょっと違った気配をも運んで、私の鼻さきに流れて来た。――玄関脇の三畳間に、三つになる細君の子供が、昼寝のつづきか、奥の、といっても二間しかないが、奥の六畳間の騒ぎに一向平気で、いと安らかに眠っていた。

さてここで、芝居にたとえるなら、いわば初めて物語の幕は開かれるのである。では、今までのおしゃべりはなんであったか。私というこの物語の語り手の心の楽屋をちょっと覗いて見たのであるが、思えば、そんなことは不必要であったかもしれない。

第二回 風流お好み焼