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いかなるほしのもとに

如何なる星の下に

高見 順

「文藝」1939(昭和14)年1月号~1940(昭和15)年3月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 119,508 字 · 236 页

青空文庫

という方が適切であろうと思われるくらい、実に敏捷に身ごしらいをした。そして、そんなら、ふと気がつくと雷門目掛けて一散に駆けていたというところであるべきだのに、なぜかわからぬが、私は次に悠然と、机の上の食いのこしのおいなりさんに手をのばしていた。その悠然をまねて言うならば、その稲荷ずしはアパートの路地を国際通りに出たところにある、名代昔団子と書いたのれんのかかった「桃太郎」という店の、店の宣伝をするわけではないが、大層おいしい、そしておいしいので有名らしい稲荷ずしなのだが、前述のように暖かい血液の通っている手をさえ冷え上らせるその夜の寒さは、もともと冷たいその稲荷ずしのめしを氷のように冷たくしていて、その冷たさは私の歯にシーンと沁みた。私はぷるると唇を鳴らしながら、アパートの外に出た。(私は東京の山の手で育ったが、子供の時分、夜になると「おいなアりさーん」と言って稲荷ずしを売り歩くのがいて、――昼は姿を見せず、夜ふけの、人通りがなくなる頃というと、どこからともなく、その奇体な声が近づいてきて、声の主の足音は聞えないのに、幼い私は、人さらいか何かのような気がして、怯えたものだ。