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きせつのないまち
季節のない街
山本 周五郎
「朝日新聞 夕刊」1962(昭和37)年4月1日~10月1日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 201,379 字 · 394 页
プールのある家
「お良っさんとこ、ゆうべはどうだった」勝子がきく、「うちのときたらどろがめさ、呆れ返っちゃうよ、まったく」
「おんなじことよ」良江も洗濯の水をはねかしながら答える、「飲む半分でも持って帰ってくれれば、ちっとはこっちも助かるんだけれどねえ」
「男ってどうしてああ飲みたいんだろ」
「腹の中にうわばみでもいるんじゃないかしら、つくづくいやんなっちゃうよ、ねえ」
近所の人たちは、かれらがいつ元どおりになったか、はっきりとは知らなかったし、元どおりになった以上、もう興味もないし、云うこともなかった。したがって、その二た組の夫婦のあいだには、主観的にも客観的にもなにごともなかった、というよりほかはないのであった。
プールのある家
小雨のけむる六月の午後、その親子が街をあるいてゆく。父親は四十歳ぐらい、子供は六歳か七歳であろう。六歳にしても並よりは小さいし痩せているが、父親との話しぶりを聞くと、少なくとも七歳にはなっているように思えた。
親も子もぼろを着て、板のように擦り減った古下駄をはいている。着ているぼろは袷とも綿入とも区別がつかない。俗にいう虎刈りのまま伸びた頭の毛や、痩せた不健康な顔つきは、極めて普遍的な乞食姿であり、実際にもこの父と子は乞食同様の生活をしていた。