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きせつのないまち
季節のない街
山本 周五郎
「朝日新聞 夕刊」1962(昭和37)年4月1日~10月1日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 201,379 字 · 394 页
たんばさん
「こんなこといっちゃあ冗談になりますが」慶三は笑ってみせながら付け加えた、「あいつは自分のいのちまで倹約したんじゃないかと思うくらいですよ、ええ」
たんばさん
たんばさんはもう六十二、三になるな、と或る者が云う。まだ五十代だと云う者もあるし、七十にはなっていると主張する者もある。当人は柔和に笑って、自分でもわからない、忘れてしまったようだ、などと云って話をそらしてしまう。名前もたんばさんと呼ばれるだけで、それが姓なのか渾名なのかわからない。住民登録がどうなっているか、――ここではそういう問題に関心をもつ者はいない、ことにたんばさんはそうで、彼がなに者であるかと疑う余地もないほど、ここの住人たちはたんばさんを頼りにしていた。困ったことにぶっつかったとき、悲しいとき苦しいとき、癪に障ったとき、うれしいとき、そしてそれらがどうしようもないとき、かれらはたんばさんをたずねる。
寒藤清郷先生もたんばさんのところへ幾たびか相談にいったし、ヤソの斎田先生でさえ、ひそかに知恵を借りにいったくらいであった。
たんば老人がいつからここに住んでいるか、覚えている者はなかった。