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きせつのないまち

季節のない街

山本 周五郎

「朝日新聞 夕刊」1962(昭和37)年4月1日~10月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 201,379 字 · 394 页

青空文庫

父親の口ぶりも自分の子に話すようではなく、子供のほうもまた父の話を聞いているようではない。いつもそうなのだが、二人は父と子というよりは、少しとしの違った兄弟か、ごく親密な友人同志といったふうであった。

「それにしてもさ、さていよいよ自分の家を建てるとなるとね、これはこれで問題がべつなんだな、自分たちがそこに住む家となるとさ、民族性は民族性だけれども、現実の問題はまたね」

「みんぞくせえはたいしたことないと思うな、ぼくは」

「そう云うけどね、これはきみたちの将来に関係するんだよ、ぼくたちおとなは先もそう長くはないんだしさ、これから性格を立体的に持ってゆこうとしてもむりだろうがね、きみたちやきみたちの子や孫のことも考えなければならないとするとさ、やはり一概に個人的な好みばかりも云ってはいられないんだな」

「そうだね、うん、ほんとだ」

街は雨のうちに黄昏れかかってき、往来はタクシーや通行人たちや、トラックなどでそうぞうしくなっていた。けれども、その親子にとってはまったく無縁なことのようだったし、タクシーの運転手や通行人や、街筋の商店の人たち、それらの店頭で買い物をする人たちにとっても、この親子はそこに存在しないのと同じことのようであった。