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きせつのないまち

季節のない街

山本 周五郎

「朝日新聞 夕刊」1962(昭和37)年4月1日~10月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 201,379 字 · 394 页

青空文庫

日が昏れるとその父子は住居へ帰る。それはわれわれの「街」の八田じいさんの家に添ってあり、つまりじいさんの家の羽目板にくっつけて、古板を合わせて作った物であった。高さ一メートル五〇、幅が一メートルちょっと、長さ二メートル弱の、犬小屋そっくりの手製の寝小屋で、中には板を重ねた床と、藁と蓆がつくねてあり、それが父子の寝具であった。

小屋の外にビール箱があり、中には丼が二つと箸、ふちの欠けたゆきひらと、でこぼこにへこみのあるニュームの牛乳沸しが入れてあった。ビール箱の脇に、針金で巻いた七厘があるが、針金を解けばばらばらになること間違いなしというほど、使い古した毀れ物であった。

父子は小屋の外で食事をする。ゆきひらと牛乳沸しの中に、めしと汁などがはいっていて、それはパンとシチューであったり、チャーハンとコーヒーであったり、肉と野菜と魚と、パン屑や米のめしの入り混った、なんと云いようもない食物であったりしたが、父も子も、それがどんな料理であるかについては、無関心であった。

無関心だというより、実際にはその物自体から注意をそらし、嗅覚や味覚や視覚を、できる限り他の方向へ集中することにつとめているようであった。