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きせつのないまち
季節のない街
山本 周五郎
「朝日新聞 夕刊」1962(昭和37)年4月1日~10月1日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 201,379 字 · 394 页
「乞食までしなければならないのはよくせきのことだよ」と花彦のかみさんは、「のんべ横丁」の同業者たちに云った、「それを一人で掻き集めて、銭儲けをしようなんてのは人間じゃないね、そんなやつにやるくらいなら、あたしはどぶへ捨てちまうよ」
その子供はこれらの危険をよく知っていた。残飯を呉れる店の人たちも、特に彼だけをひいきにしているわけではない、店を閉めようとしてあと片づけをしているときに、呼吸よくあらわれる者があれば、相手は誰でもそう差別はつけない、一と足おくれただけで、馴染みの店を他人に取られることも少なくないのだ。
さらにもう一つ。それらの店がいつもこころよく残飯を呉れるわけではない、ということを知っていなければならない。
かれらもまた、多くは経営が楽ではなく、苦しいやりくりをして店を張っている者が、――外見にかかわらず相当にあった。これらを一般に「水しょうばい」というらしいが、水しょうばいとなるとにんきが大切だそうで、どんなにふところが危機に直面していても、そんな内情はけぶりにもみせないのがこつであり、また危機を脱するちから杖ともなるという。――したがって一握りの残飯をやるにも、慈善の満足感ばかり味わっているわけではなく、「こっちもそれどころじゃないよ」