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きせつのないまち

季節のない街

山本 周五郎

「朝日新聞 夕刊」1962(昭和37)年4月1日~10月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 201,379 字 · 394 页

青空文庫

と云いたいときが少なくないだろう。――ことに、それがすし定とか花彦とかいう、主人か主婦とじかな場合はいいけれども、使用人、なかんずく女給さんなどのいるところでは、スムーズにいかないことがしばしばあった。どういう心理作用か不明ではあるが、レストラン、またはバーを兼ねている洋食屋の女給さんの中には、客の喰べ残した料理の皿でタバコを揉み消したり、ルージュの付いた塵紙を突込んだり、マッチの棒、爪楊枝、洟をかんだ紙、その他もろもろの物品を投げ入れる癖がある。ひどいのになると、残飯をあけているところへ、わざわざやって来て、タバコの吸い殻を放り込む佳人さえあるのだ。

子供はいま「リザ」というレストランの裏に来ていた。そこの硝子戸はあいているが、いつものコックの姿は見えず、二人の女給が高声に話しながら、流し台によりかかってタバコを吸っていた。

「あら、また来たよあのちび」と女給の一人が裏口にあらわれた子供をみつけて云う、「だめだよ来たって、なんにもありゃあしないんだから、帰んなさい」

子供は片隅へ眼をやる。そこにはドラム罐の半分くらいの、ホーロー引きの罐があり、中には喰べ残した洋食の屑が八分めほど溜まっていた。