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きせつのないまち

季節のない街

山本 周五郎

「朝日新聞 夕刊」1962(昭和37)年4月1日~10月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 201,379 字 · 394 页

青空文庫

、まあたいしたことはないらしいな」

つめたい雨が降りだしてきた。もう十二月に近い午後の街は、いっとき人の往来もまばらになり、道はゆっくりと濡れだして、小石がつめたそうに光ってみえた。仔犬は尻尾を垂れ、首を垂れて、濡れてゆく毛が重たそうに、それでも彼の側からはなれず、ちょこちょことついてゆき、街の或る角へさしかかると、いかにも勝手知ったというふうに一方へ曲る。――彼はいつもそっちへ曲るとはきまっていない、しばしばまっすぐにゆくか、反対側へ曲るかするが、仔犬が立停って、不審気に見まもっているのに気づくと、黙ってあと戻りをし、仔犬の曲ったほうへあるきだすのであった。

その道を二丁ばかりゆくと、勾配のゆるい坂になって、登り口の右側に交番があり、そこからほんの三十歩ばかり上の右側に、西願寺の山門があった。

仔犬を伴れた彼はその山門をはいり、本堂の前庭を横切って、まっすぐに墓地へはいってゆく。雨はつよくもならないが、やむけしきもなく降っていて、裸になった木々の枝に溜まった滴が、彼と仔犬の上へ、しきりにこぼれ落ちた。

墓地にも地区別があり、高級住宅地と中産階級とは、下級住宅や長屋階級とかなりはっきり地区を別にしている。