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きせつのないまち
季節のない街
山本 周五郎
「朝日新聞 夕刊」1962(昭和37)年4月1日~10月1日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 201,379 字 · 394 页
箱入り女房
「注水と排水設備にちょっと難点があるんだな、そう」と彼は顔ぜんたいを手で拭き、眼のまわりを拭きながら云う、「地所が高台だからさ、渇水期のためにタンクを備えなくちゃならないしさ、排水のほうもなにしろプールいっぱいの水となるとね、ちょっとした下水くらいじゃまにあわないんだな」
仔犬が鼻声でないた。
彼は片手で、空間になにかを描くような手まねをしたが、すぐにその手をだらんと垂れ、同時に頭も低く垂れた。そうして、誰かそこに人がいて、その人間に語りかけるような調子で云った。
「大丈夫、きっと作るよ、きみがねだったのは、プールを作ることだけだったからな、――きみはもっと、欲しい物をなんでもねだればよかったのにさ」
雨のしずくがたれるので、彼はまた顔を手で撫で、眼のまわりをこすった。空はかなりくらくなり、仔犬はふるえながら、あまえるようになき声をあげた。
箱入り女房
徳さんが結婚した。
徳さんは高名な親分「築正」一家の身内だそうで、プロの博奕打ちだということをつねづね誇りにしていた。どこまで信じていいか、誰にも見当はつかない、けれども、賭けごとの好きなことだけは明白な事実であった。