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きせつのないまち
季節のない街
山本 周五郎
「朝日新聞 夕刊」1962(昭和37)年4月1日~10月1日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 201,379 字 · 394 页
女を見る平さんの眼が動かなくなり、女の表情が変った。色の白いちんまりとした顔から、静かに赤みが消えてゆき、若わかしくなまめいてみえたのが、つめたく乾いて、みるまにしぼみあがるように感じられた。
平さんはなにも云わず、向き直って外套をぬぎ、くたびれた茶色のピケ帽をぬいで、板の間へあがった。女はそっと土間の中を見まわした。洗面器や粉シャボンの罐や、なにかの壜の並んだ台の下に、バケツが二つあり、その台の反対側に低く棚が吊ってあって、そこには食器をいれた籠や、安全剃刀やシャボンの箱などが、きちんと置かれてい、下の段には蜜柑箱が三つと、ニュームの鍋などがあった。
女は包を板の間の端に置き、その中からしごきを出して襷にかけると、二つのバケツをしらべ、からになっている一つを提げて、小屋の外へ出ていった。
そして、女はそのまま小屋にいついた。
平さんは女に口もきかず、眼を向けようともしなかった。それは女の存在を無視するというのではなく、彼女が来たことも、同じ小屋にいることも、ぜんぜん現実ではないかのようであった。――女は水を汲み、めし拵えをし、掃除も洗濯もし、買い物もした。