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きせつのないまち
季節のない街
山本 周五郎
「朝日新聞 夕刊」1962(昭和37)年4月1日~10月1日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 201,379 字 · 394 页
平さんは身動きもしなかった。
「あなたがこんなになってしまって、もう二十五年以上にもなるのに、あたしはどうしたらいいんでしょう」
また或る夜、彼女は細くつきつめた声で訴えた、「あなたも苦しいおもいをしたでしょうけれども、あたしもずいぶん辛いおもいのしどおしでした、亡くなった母はあなたに申し訳がないって、死ぬまであたしを許してくれなかったし、母が亡くなったあとは、自分で自分を責めたり憎んだりしてきたんです」
これらの言葉は、幾十たびとなく繰り返して覚えたせりふのように、順序よくすらすらと語られるのであった。苦しいとか、辛いとか、死ぬまで許されなかったとか、自分を憎んだ、などという強い意味のある言葉が、あまりによどみなく語られるため、その強い意味を失って、しらじらと平板な感じしか与えないようであった。
「人殺しのような重い罪を犯した者でも、事情によって、苦役が終れば許してもらえるっていうじゃありませんか」或る夜はそう云った、「もしもこうすればあなたの気が済むということがあったら、そう云って下さい、あたしどんなことでもしますから」
平さんはなにを云われても答えなかった。